Liner Notes
or Stories
of Songs
by Saidai M
アルバムの概要・解釈・歌詞
Passion
ここに書かれている内容は、作者がいかなる考えに基づいて楽曲制作をおこなったかを示したものですが、作者の解釈のみが正解であるということは意味しておらず、楽曲群への多様な解釈を妨げる意図はございません。
あくまでも、作品の楽しみ方のひとつとして考えていただければ幸いです。
↓↓ウェブサイトに戻る↓↓
ある男の物語
Album: The Story of a Man
ある男の物語
The Story of a Man
Release Year: 2020
Lyrics Language: Japanese
ある男の悲運を描いた、全曲iPhoneのみで作成されたアルバム。
iOS版のGarageBandを使用。ボーカルと「イムラウ」のホイッスル以外は打ち込みである。
The Dark Precursor:
The male protagonist meets ghosts at the old house in the new moon night. He is finally controlled by their witchcraft, and goes into the darkness.
闇の中の前触れ:
主人公の男は、新月の夜に古びた屋敷の中で亡霊と出会う。彼は亡霊の妖術に支配されてしまい、黯黮(くらがり)の中に姿を消す。
Morning Dew Moistened Young Leaves:
He goes into the forest. There he sees that morning dew reflects sunshine, and hears birds singing. Dazzling light suddenly appears sometime after he keeps on roaming.
朝露が若葉を濡らす:
男は木々の中へと分け入っていく。若葉を濡らす朝露が陽の光を返す中、鳥の声を聞きながらあてもなく歩き続けていると、突然、まばゆい光に包まれた。
The Modern Street:
He finds himself to be the place called the Modern Street. There he meets a clever person, who gradually attracts him.
モダン街道:
彼は、自分がモダン街道と呼ばれる場所にいることに気がつく。そこで彼は聡明な人と出会い、徐々に惹かれていく。
この歌のみ、視点が主人公の男ではなく、彼が出会った「聡明な人」の視点で歌われている。
Phantom:
He has never known that he had his body. Only his thought entity floated in the air when he found himself to lose his body. He can’t communicate anybody. Anyway, he tries saying a word again and again, but no one can hears.
ファントム:
彼はここにきて初めて、自分が肉体を失いつつあることに気づいた。ただ、思念する何かだけが浮遊していた。誰とも意思疎通をおこなうことができない。だがそれでも彼は、自分が惹かれたあの人に、言葉を伝えようと試みる。だが、声は届かない。
Immram:
He begins to sail to the sea. He keeps cursing the world and his own life during the voyage. He doesn’t feel he is saved or cured, but just floats in the vast ocean.
イムラウ:
彼は航海を始める。その航海の間、彼は世界を、そして自分自身の人生を呪い続ける。彼は自分が救われたり癒されているとは感じず、ただただ広い大洋を漂っている。
Time to Say Goodbye:
He no longer lost what makes him spark joy. To the person who he gave his heart to, he couldn’t say that he was an admirer. He decide to say farewell to the past.
トキメキにサヨナラ:
彼はもはや自分をときめかせるものを失ってしまった。彼は、自分の想い人に対して、慕っているという気持ちを伝えられなかった。彼は過去にさよならを告げることを決意する。
A Throw of the Dice:
Stéphane Mallarmé, a French poet, said that ‘a throw of the dice never will abolish chance’.
The male protagonist kept casting the dice of life. The miraculous chain of unexpected events was caused by the experience that he encountered ghosts at the old house. He has not been able to touch physical things since he lost his body. However, his thought-form was left, and is floating in the world. He accepted the situation because he found himself that he could deepen his thought as time passed. He just try understanding every entity, event, and phenomenon; ‘not to laugh, not to lament, not to curse, but to understand’, as Baruch Spinoza, a Dutch philosopher, once said.
サイコロの一振り:
彼の人生は、まるで行動するたびにサイコロを振っていたかのように、多くの偶然が重なって作り上げられた。サイコロが振られた後は、もう後戻りできない。彼の日常を揺るがした「亡霊に遭遇する」という経験は、その後に起こるさまざまな偶然を呼び寄せた。彼は肉体を失ったことで世界との物理的な接点を絶たれたが、思念のみは残されて世界を漂い、生死を越えた存在となった。
彼の肉体は、生きて時間を刻むことができなくなった。だが彼の思念は時間の経過とともに深さを増すことができる。そのことに気づいた彼は、すべてを受け容れた。そして、誰かを笑ったり、呪ったり、あるいはこの状況を嘆いたりせず、ただただ、世界のあらゆる存在や事象を理解しようと試みることにした。
歌詞
闇の中の前触れ
(The Dark Precursor)
新月の夜に たどり着いた
古びた白い屋敷の中
住み着いた亡霊との邂逅が
男の運命を変えていった
揺蕩うものに 尊き光
さまよう魂 鎮めよ怒り
紡がれるイデア 感覚の連鎖
強いられたムーヴメント 交錯する怨嗟
結び目が解けて 見えぬ行く末
暗闇の中に現れる前触れ
男の意識が遠のく
くらり 夢現
しばし微睡むうちに 躬らが
綻び始める姿を見ていた
すべてのものを静かに変えていった
亡霊が語る 呪いの言葉は
まるで夜空に浮かぶ 星の群れ
暗闇の中に現れる前触れ
ああ やがて男は黯黮(くらがり)に消えた
朝露が若葉を濡らす
(Morning Dew Moistened Young Leaves)
朝露が若葉を濡らす
この衣を湿らせて この足を洗う
ここがどこなのかわからず
あてもなく さまよっている
ああ 光が射す世界
真っ白になっていく視界
モダン街道
(The Modern Street)
背景事情も知らないで
衒学的な問いかけなんていらないね
肝心なところを把握することもしないで
勝手に曲解した考えを押しつけないで
ここはモダン街道
トーンポリシングはお断りよ
街を闊歩するモボ・モガ
誰もが モダンパーソンを気取るの
だからわたしは
誰かに守られる自分じゃなくて
誰かを守る自分でありたい
それこそがモダンな振る舞いだから
お願い このまま
気取らせていて
それが本当にいいこと
ならば前時代的な環境のままを望むでしょう?
人は日々成長し変化するもの
わたし自身も継続的な更新が必要
ここはモダン街道
故きを温ねて新しきを知る伝統
今も息づいているところ
あの頃も モダンパーソンを気取ったの
だからわたしは
誰かに守られる自分じゃなくて
誰かを守る自分でありたい
それこそがモダンな振る舞いだから
お願い このまま
気取らせていて
この世界を
看取らせていて
ファントム
(Phantom)
希望を持っていた
言葉を交わしたいと思った
触れ合えたらよかった
でもそれはできないと気づいてしまった
器がなくても魂があれば通じ合うなんて嘘だ
肉体がなければ互いに触れ合えず
言葉を発することも物理的に不可能だ
テレパシーもできない すべてすり抜けていく
人の形をしたファントム
欲しいものは安堵
希望の船出にはならなくとも
暗澹とした大洋に出るしかないよ
街で出会ったんだ
刺激と安心をもたらすあの人は
聡明な人だった
その姿を見ることしかできなかった
朝露が儚く消えたのはこれを暗示していたんだ
こうして次第に感情を失っていく
闇に呑まれたあの日は伏線だったんだ
恐怖さえ感じない すべてすり抜けていく
人の形をしたファントム
欲しいものは安堵
希望に満ちた旅をしたくとも
目の前に広がるのは 泣き出しそうな雲
仮に生まれ変わっても
同じ運命線をたどるのかな この先もずっと
ねえ誰か 答えてよ 答えてよ 答えてよ
まあいいや とりあえず海へ向かおう
イムラウ
(Immram)
言葉にしようと思った瞬間
やっとの思いで形になった言葉が
ふつりと消えていった
もやもやが脳裏にこびりついたまま
周りのざわつきが気になるたび
ことがらについての思惑が不安を増す長い旅
放っておいてほしいような
気にかけてほしいような
ただ、わからない、わからないって
叫ぶことしかできなかった
解き放たれないってずっと悲観
そんな日々を自分に強いる言葉が
むしろ湧いて出てきた
たぶんこれは異常なんだろうな、ああ
わたしを形作った文化が失われていく
わたしの存在理由なんて誰も意識せず
まるでそれが金持ちの道楽って
言わんばかりの眼差しで
単に作動するだけの肉塊と見做された
この航海に後悔がないとは言えない
世界を呪い続ける旅なんて大嫌い
周りのざわつきが気になるたび
ことがらについての思惑が不安を増す長い旅
放っておいてほしいような
気にかけてほしいような
ただ、わからない、わからないって
叫ぶことしかできなかった
そんな叫びも圧し潰されれば
わたしは人間であることをやめる
そんな叫びも圧し潰されれば
わたしは人間をやめる
トキメキにサヨナラ
(Time to Say Goodbye)
どこまでも 続く道
いつまでも 歩いてる
今はまだ どこに行くべきかわからない
はるか遠く臨む
優しさだけじゃ駄目 想いを伝えなきゃ
意味をなさないことくらいわかるはずだ
忘れてしまえばいい そう割り切れるなら
いいのにな
なぜだろう 思い出す
あのときの 風景が
今もまだ 瞼の裏に焼きついている
夕刻の曇り空
かつて感じていた 淡い感情は
決別すべきときを迎えた
もう振り返らない 先を見据えたら
旅に出ようか
消えゆく 灯火
トキメキさえ 遠くに
優しさだけじゃ駄目 想いを伝えなきゃ
意味をなさないことくらいわかるはずだ
忘れてしまえばいい そう割り切れるなら
言えるから
サヨナラ
サイコロの一振り
(A Throw of the Dice)
*instrumental
ヒューマニティーズ
EP: Humanities
ヒューマニティーズ
Humanities
Release Year: 2021
Lyrics Language: English
© 2020